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~読書ノコト~

【読了】坂上香『根っからの悪人っているの?』創元社

 

 

こんにちは。

本ブログで、「本格的」に読了した最初の一冊目の紹介となりました。著者の坂上香さんは、映画『プリズン・サークル』の監督さんで、同名の書籍化を岩波書店から刊行されています。本著『根っからの悪人っているの?』は、その正統な関連本であり、創元社から好評続刊中のシリーズ「あいだで考える」の一冊として刊行されたものです。

映画『プリズン・サークル』は、普通なら「刑務所」として知られるだろう施設「島根あさひ社会復帰促進センター」(以下、「センター」)内に取材のカメラが入り、そこでTC(=回復共同体)として、選抜された希望者に対して行われる院内教育を収めたものです。ここでは、刑罰、懲罰という視点よりは、その当事者たちが犯行に至るまでのプロセスの「自覚」を促すことを中心とした「教育」が行われています。

TCとは、米国由来の手法、考え方であって、当事者同士が互いの経験や感情を共有し合うことで、犯罪歴やトラウマに対峙し、そこからの回復を目指そうとして提唱されています。日本では、まだこのTCが導入されているのは、このセンターのみであるようです。

さて、映画『プリズン・サークル』は2020年に公開されました。この『根っからの~』はそれ(映画や著作)に接した4人の若者と坂上さん、加えて映画で取材を受けていた「真人さん」(第2回め)、「翔さん」(第3回め)、さらに犯罪被害者である「山口さん」(第4回め)を交えた、全5回の対話篇を収めています。このブログ記事では、その読後感をまとめていこうと考えています。

本著の目次

  • はじめに
  • 第1回 初めての対話
  • 第2回 真人さんとの対話
  • 第3回 翔さんとの対話
  • 第4回 山口さんとの対話
  • 第5回 最後の対話
  • おわりに
  • 作品案内

※対話の主人公たちは、よう/まほ/なつね/のぶきの4人です。

覚えておきたい

本文中に出てきた、重要で今後も「考える」にあたって手助けとなるような言葉を、順不同で挙げてみます。

感識(エモーショナル・リテラシー)/感盲

「感識」とは、感情についての「識字能力」であり、または、「感知」し「表現」する力と言えると思います。また、「それら」(=感情を感じとり、理解し、表現する力)を「獲得していく力」や「過程」であるとされています。それらを阻害され、感情が感受できない状態を「感盲」と言うようです

サンクチュアリ

「聖域」と訳されることが多いが、「TCでは『心から安全だと感じられて、安心して本音が話せる場所』」とされています(p.58)。私の知っている類語としては、「アジール」(避難所。政治的権力や、宗教的権威が及ばない安全な場所)というのが近いと思っています。

感情の筋肉

逐語的な解説はされていませんが、感情の筋肉を「つける・鍛える」とは、感識を豊かにしていくために必要なことであって、現実の問題を理解し、それについて考え、語る・語り合うことで身についてくとされているものと、私は理解しています。

修復的司法(Restorative Justice)

犯罪についての新しいアプローチで、国連も推奨している。犯罪に対して懲罰的な態度で臨むのではなく、「犯罪を社会に対する『損害(ダメージ)』」と捉え「加害者自身が自分の責任を認め、できる範囲で被害を修復するよう促す」ものとしている(p.143)

余録

  1. 翔さんのご発言で、「社会にはサンクチュアリがない。どうしたらいいですか」と上映会に呼ばれる度に聞かれてきたというものがありました(p.112)。敢えて読み替えれば、「見つけられない」「作れない」ということなのでしょうか。しかしながら、自ら作り、拓くしかないのではないかとも思います。
  2. YAA!(ヤングアダルト&アート・ブックス研究部会)主催のZoomイベントでも発言したことですが、この本については、折りに触れて読み返し、語り合えるようでありたいと思います。
  3. TCに関して、AA(アルコホーリクス・アノニマス)やオープンダイアローグ等との関連性・親和性を感じています。その辺り、もう少しクリアにしていければいいなと思っています。

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今回は以上とさせていただきます。お読みくださいまして、ありがとうございました。それではまたいずれ!